『カウボーイビバップ』の食事風景

 『カウボーイビバップ』の第1話は、トレーニングをするスパイクと、中華鍋を振るジェットのカットが交互に挿入されるシーンから始まる。肉無しのチンジャオロースに不満を言うスパイクから、裕福な生活ではないことが示唆される。カウボーイビバップにおいて、仕事がうまくいかない=収入がない状態であることはこの後常に食事の不足と繋がって表象されることとなる。
 スパイクとジェットの2人で始まる『カウボーイビバップ』は、その後記憶を失いギャンブルに明け暮れ借金にまみれた生活を送るフェイと、特異なハッカーの腕前を持つエドを主要人物として加え、4人それぞれの過去と向き合っていく物語が主軸としてつづられる。
 前編と後編に分けられた最終回の一つ手前の第24話「ハード・ラック・ウーマン」では、後から加わったフェイとエドが自分の居場所を見つけ=探しにビバップ号を離れることになる。様子のおかしい2人を見かねて、ジェットはろくな物を食べていないからだと賞金首を探す。
 5千万ウーロンの賞金首として手配されていた人物を探し当てたところ、それは実はエドが50ウーロンとして賞金をかけた自分の父親であり、賞金は得られずその父親からは山盛りの卵を渡される。父親はそのまま去るが、ビバップ号で記憶を取り戻したフェイはエドへ「自分のいるべき場所へ戻るべき」と告げて自分の生まれ故郷へ出発し、エドも父親を追いビバップ号を去る。
 食卓では、スパイクとジェットの2人が無言で向かい合って座り、2人が出て行ったことに気付かずに作られた大盛のゆで卵のボウルが4つ、並べられている。黙々と目の前のゆで卵を食べるスパイクとジェット。そこに、もはや跡地となった生家で寝転がるフェイと、道を行くエドのカットが挿入される。無言で目の前のボウルを空にしたスパイクとジェットは、そのまま横に手を伸ばしフェイとエドの分として用意されたゆで卵を争うように口の中に放り込んでいく。言葉で告げられなかった別れは、食事風景に挿入される出て行った先のフェイとエドの様子と、4人分として準備された食事を2人で消化するという行為が描かれることで観る者に告げられることになる。
 収入がない=食事の不足はここでさらに、いるべき人間の不足という欠落感につなげられ相乗的にもの悲しさを浮き立たせるのだった。